2022年3月4日,PASPY運営協議会ならびに広島電鉄などから,
広島県内を中心とした公共交通機関において導入されている交通系ICカード【PASPY】が,
2025年3月までに順次サービスを終了する予定であることが発表されました。
【関連リンク】
交通系ICカードPASPYのサービス終了について | 広島県交通系ICカード:PASPY「パスピー」 公式サイト
【速報】パスピー2025年3月末までに廃止 運営協が発表 | 地方経済 | 中国新聞デジタル
取り急ぎ,各メディア・機関から明らかとされている情報を整理します。
PASPY廃止のスケジュールは?
現地点で発表されている情報によると,2025年3月末までにサービス提供を順次終了するとされています。
PASPYはこの期日までに全ての場所で利用することができなくなってしまいます。
PASPY廃止後はどうなる?
広島高速交通(アストラムライン)
広島高速交通(アストラムライン)については,JR西日本の提供する【ICOCA】が2024年度を目処に導入されます。
乗車券機能としての機能はもちろん,IC定期券としても利用可能となる予定で,さらにはJR各線との連絡定期券の発売も想定されています。
広島電鉄
「新しい乗車券システム」が2024年10月を目処に提供開始される予定となっています。
このシステムは,広島電鉄とグループ各社などが導入予定としています。
他の交通事業者
PASPY運営協議会に加盟する他の事業者についても参加を呼びかけるとされていますが,
現地点で明らかとなっている情報はありません。
「新しい乗車券システム」とは
広島電鉄では,日本電気(NEC)・レシップと共同で,スマートフォンに表示させたQRコードや,新たな交通系ICカードを認証媒体とするABT(Account-Based Ticketing)方式と呼ばれる新しい乗車券システムの開発が行われています。
ABT方式は,QRコードまたはICカードと紐づいた利用者の情報をクラウドサーバ側で管理する方式となっており,機器側では高速な計算処理を行わないため,システム全体の低廉化を図ることが可能となるそうです。
新しい乗車券システムの利用方法は?
現地点で発表されている情報によると,原則スマートフォンにQRコードを表示させる「新アプリ」による乗降となります。PayPayなどと同様のイメージです。ただし,スマートフォンを持たない高齢者や子どもに配慮し,新たなICカードも導入されます。
新アプリの利用には会員登録が必要で,個人名での記名式となります。銀行口座やクレジットカード情報を紐付けることで定期券がオンラインで購入可能になるほか,日常の利用についてもオンライン上でチャージや決済を行うこととなります。ただし,これらを持たない利用者へ配慮し,今後も窓口においては現金によるチャージを受け付けるそうです。(車内でのチャージは不可)
従来どおり現金での乗車は可能とされていますが,他の交通系ICカード(ICOCAなど)が今後も利用できるかどうかは「未定」とのことです。
PASPY廃止の経緯
PASPYの廃止については今回の発表で明らかとされる以前より,機器の老朽化による更新に多額の投資が見込まれることやシステムの維持が困難となることから,昨年5月に行われた広島電鉄の2020年度決算会見において椋田社長がPASPYの廃止を明言していました。
ICカードをハードとソフトの両面で自前のシステムで用意すると多額の費用がかかります。
特に,7年から8年ごとの機器更新に40億円以上の費用がかかることが挙げられており,加盟各社で利用比率に応じて折半するとはいえ,広大なバス路線と路面電車を有する広電が20億円以上負担しているとされています。
これには,交通系ICカード全国相互利用サービスの利用を可能とするためのICOCAセンターシステムへの接続料も多く含まれています。
コロナ禍で大幅な経営状況の悪化を受けたことはもちろん,今後駅前大橋線や宮島口地区港湾整備事業に伴う広電宮島口駅移設,さらに広電宇品線の延伸・出島地区への車庫移転など多額の投資を控える広電にとってPASPYに係る維持管理費用が重たい出費であることは間違いありません。
PASPY廃止による影響
かといって,発行枚数は190万枚以上を数え広島県民の約3人に2人が利用しているPASPYを廃止することは簡単なことではありません。
すっかり県民の日常生活に欠かせないものとして普及してきたカードを簡単に廃止して良いものなのでしょうか。
更新費用に多額の費用がかかり負担となっていることは理解が及びますが,PASPYの開発,ならびに導入などの初期投資にも多額の費用がかかっていることは間違いありません。
PASPYは協議会の代表を務める広島電鉄を含めた32社で導入されており,そのなかには最近になって新たに導入された公共交通も存在します。
そもそも財務基盤が弱い会社にとって,新しい決済スキーム(方法)の導入自体が非常に重たい出費であることには間違いがなく,今回のPASPY廃止および新しい乗車券システムの導入にあたって,そのような会社に対して更に多くの出資を求めることとなってしまいます。
確かに全国各地で乗車券(例:ゆいレール,スカイレールサービスなど)や,デジタルフリーパス(例:小田急EMot)などでQRコードが実用化されるなど全体的なQR化へ向けた動きは散見されますが,あくまでそれらはICカードで置換出来ない部分に対する動きであり,将来的な磁気券縮退(裏が黒いきっぷの撤廃)が目的であるといえます。
よって,決済処理の都度サーバーへの照会が必要とされるクラウドベースの新しい乗車券システムでは1人あたりの通過時間が伸びてしまい,乗降時の混雑に拍車がかかるリスクが懸念されます。
また今後も車内での現金精算は継続して取り扱うことからも,停車時間が増加することが安易に想像され,さらなる遅延を誘発してしまいます。
アストラムラインが先行してICOCAへの移行を発表したのも,主に通過時間が伸びてしまう理由からだと推測されます。
あくまでスマートフォンを持たない利用者へ配慮したものではありますが,ICカード式乗車券の完全撤廃とはならない点は安心しました。
しかしながら,少しでも乗降時間を短縮するためには一番不慣れな利用者となる観光客など来訪客への配慮が必要不可欠となる一方で,全国相互利用交通系ICカードへの対応すらも未定であると言葉を濁している現状を考えると,あまり期待できないかもしれません。
現状では依然として先行きが見通せません。
今までのスキームであるICカードを補助的な手段とするのではなく,新たなスキームとなるQRコードとを適材適所で効果的に活用することによって,最低限,現状の利便性を今後も継続して維持することのできる着地点が見出されることを強く望みます。
コメント